山田太一 オフィシャルホームページ
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1.山田太一って奴は・・・。
2.教習所所長の責任感。
3.奇跡のイベント。
4.痴漢逮捕劇。
5.ヒーロー再び。
伝説の痴漢逮捕からわずか二週間後の同じく大都会の深夜、再び大事件に遭遇する太一。
たった二週間前にヒーローにでもなったような浮き足立っている太一は迷うことなく、火の中に飛び込んでいった。
ヒーロー再び。
あの痴漢逮捕で周りの話題をかっさらっていた太一は、こんな事が起こるのが東京なんだと妙な思い込みと持論で、車を運転しようものならいつも自分が周りをパトロールしているような気分で目を光らせていたのであった。
そんな頃、毎週のことで珍しくはない夜中の3時過ぎ、いつものように渋谷を通りかかった太一の車が渋谷警察署の前の交差点を三軒茶屋方面に右折した瞬間だった。
なにやら併走する高速道路の上にオレンジ色の雲がかかっていた。
なんだ?瞬間的に異変を察知した太一はすぐにそのオレンジ色の雲を目で追いながら金王坂を上っていった。するとどうやら高速道路上で火災だ。トラックが燃えているのがわかる。
太一は自分の車を坂をあがったところにあるホテルの目の前に止め、そのホテルに飛び込んだ。
フロントに駆け寄ると、フロントのスタッフは何事かと言う目で俺のほうを見た。
そりゃそうだ、夜中の3時にダッシュでフロントに駆け込む男は異常極まりない。
フロントのすぐ近くまで行く前に声を発した。
『目の前の高速でトラック火災です。すぐに通報よろしくお願いします!』
そう言ったらフロントはわかりましたと小気味よく返事をしてくれて受話器を取った。
それを確認すると踵を返した太一は、再びダッシュで外に飛び出していった。

向かった先は自分の車ではなく、高速の渋谷出口。
幸いにもそのすぐ側には首都高速の渋谷出口があることを知っていた太一はそこから高速道路上に猛ダッシュをかけたのだ。
道路上に上ってみるとすでにトラックの運転席が真っ赤になってフロントガラスが一面火を映していた。煙が横の窓からもくもく上がっているがまだ消せない状態ではない様な気がした。
そのトラックは渋谷出口に降りる車のために車線が広くなっている所に寄せて停まっていたが、流れている車は車線に飛び出しているわけではないので、横目で見ながらも通過している状態だった。

まずは消火だ。
近づくと一人の男が呆然と立っていた。すかさずに声をかけた。
『ドライバーさんですか!?』
『あぁ、はい。なんだか、運転席の下から急に火が出て、何にもしてないんです!何にもしてないのに急に火が出て・・・』
こりゃダメだ。すでに自分の非が無い事だけを一生懸命説明している。
これでは使い物にならない。
ドライバーの話を途中で折って隣を通過中のトラックを止めた。
ドライバーに消火器をもらうためだ。協力的なドライバーが車を止めて消火器を置いていってくれた。
しかし、消火に協力するほどではなく車を走らせて行った。
そのもらった消火器をすぐに安全ピンを抜くと燃えているトラックに近づいていった。

しかし、その時に火の強さ、改めて思い知らされた。

まだ、火はガラスの向こう側、運転性の中だけが燃えている状態で消火器で近づけば火は消せると思うではないか?ところが火が消せる消せないじゃなく近づけないのだ!!
消火器の消化液が凄い勢いで噴出される、その消化液が届く範囲まで近づけないのだ!
なんということだ、あまりの熱さに顔を服で覆い出来るだけ熱さを感じないように近づいていくのだが、ちりちりと見ている眼球の表面が焼けるような熱さなのだ。
悪戦苦闘しているうちに消火器の噴出は止まった。

そこで自力での消火を諦めた。すでに火は運転席の中だけではあるが天井に達し自力での消火は厳しい状態に達してしまった。

それで、まずはドライバーを安全な所に誘導し落ち着いて座らせて通過中の車の交通整理に当たった。程なくして消防車がすぐ下のホテル前に集結し始めている事が音で伝わってきた。

まぁ、大事に至らなくて良かった。
そう思いながら2車線を1車線に誘導していた太一の背後で、その音を分析できる人間からすると、この世の物とは思えない嫌な音が響き渡った。その音を聞いた太一は背中に寒気が走りそっと後ろを振り返ったのだ。
その音はなにやら物凄く張り詰めていた物が解き放たれるような音。文字にするには非常に難しい音だがあえて文字にするなら『ビッキョーン!』『バイーン!』・・・無理だ。やはり上手く表現は出来ない。

太一はその音を聞いた瞬間にそれがその音だと気づき、恐る恐る振り返ると、その燃え盛るトラックが坂の途中に停車している事を目で確認した。慌てて飛び出した太一が取った行動はトラックに体当たりだった。
その体当たりをするためにトラックに向かってダッシュしている太一の頭の中で、なんと自分か馬鹿だったか後悔がヤマのように溢れてくるのだった。それは教習所で働いていた太一には当たり前の事だが輪留めをしておかなかった事に対する後悔だ。
あれほど冷静に対処していたつもりの自分もこんな大事な事を落としてしまう大失態だ。
その後悔と反省をぶつけるつもりでトラックに体当たりした。

そう、あの音は運転席で燃え盛る炎がサイドブレーキのレバーを焼いてしまい、ワイヤーは切れてはいないだろうが元の止めておく装置自体が焼け落ちてしまったのだ。そんな事ちょっと考えたら解るであろうに、輪留めをしておかなかったのだ・・・。

ほんの少しでも動き始めたら大の大人でもたった一人では到底とめることは出来ないであろう。だから猛ダッシュしたのだ。後ろに向かって下り坂のその場所で下がり始めたら大変な事になるのは容易に想像が出来る。動き出す前、間に合え!わずかに動いても止められる程度の内に間に合え!!
その体当たりした太一の方から流血が。

しかし、必死に押している太一の体を全く小石程度にも感じないほどゆっくりと動き出す巨体はどれだけ押し返そうとも1/2gt二乗の加速度で加速し始めたのだ。

やばい・・・振り返った太一の目に飛び込んできたのはマーチに乗った女性ドライバーが口をあけて停まっているではないか!その助手席には母親であろう中年の女性も。太一の姿を見て驚いて停まってしまっているのだ。

いかん。トラックを微力ではあるが押し続けながらその女性に手を振った。『行けー!どけー!』
女性はなにをやっているか最初はわからなかった様子だが、俺と目があっていることにハッと気がつき慌てて車を前に走らせた。

いくらスピードは遅くてもこれだけの重さのトラックが当たれば無事ではすまない。乗り上げてしまったら二人とも命は無いだろう。

その車が走り去った後ろに、今自分が格闘している大型トラックと同じ大きさのトラックが控えていた。もうダメだ。悟った太一はその後ろのトラックの運転手に目を合わせ片手で顔の前で拝み眉間にしわを寄せた。その表情を読み取ったドライバーは物凄く諦めた表情で軽くうなずいた。
それを確認した瞬間太一はトラックから離れた。微力でも抑えが無くなったトラックは急に加速をまして滑る様に後ろのトラックに向かっていった。

その衝撃の音は時速で10キロに届くか、そんなゆっくりとしたスピードではあったがかなりの音を響かせた。後ろのドライバーは車を降りてきた。

その動きから無事だと確認した太一は慌てて高速道路の端っこに駆け出した。胸ほどの高さのコンクリートの壁に張り付いてその下で消火準備をしている消防隊に大声を上げた。
『トラックのサイドブレーキが落ちました!現場は15m程移動しました!!!』
消防隊の動きが全員一瞬止まった。そしてすぐにその言葉を聞いて慌しく動き始めた。

伝わった様だ。それを見た太一はホッと大きく息をしてその場に座り込んだ。

運転席がほぼ原形をとどめておらず、気がつけばフロントガラスもすでに外れてしまっている。
その燃える様子をボーっと見ていた。どれくらい経っただろう、恐らく3分ほどだと思うが物凄く長い時間に感じたが、やっと消防隊が現れた。

その消火する様を見ていると、渋谷署から警察も大量にやってきていた。
消火に携わった人間として調書になる情報だけは提供しなければいけない。
スーツを着た警察の職員に名前を聞かれて山田太一ですと答えると少し離れた所にいたその警察の上司であろう男性が近づいてきた。どこかで見たことがあるその男性は疲れて少しボーっとしている太一に向かって『おい!又お前か!』と言葉を吐いた。
ハッとした太一がその人の顔をじっと見ると、その男性はニコッと笑った。
ボーっとしてあまり認識をしようとしなかった太一だが、その言葉で改めてその人を認識しようとじっと見たのだ。わかった!太一もすぐにわかった。わずか3週間ほど前に痴漢を逮捕して調書を取ってくれていた刑事さんだ。
奇遇とはこのことだ。
この後、警察にスカウトされた事は今でも笑い話だと、その時に出来た肩の傷を見せながらつぶやいてくれた太一だった。
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